今回は、「進入管制区の10,000ft以下で250ktを超えることができる状況」についての記事です。
この記事を見ることで、進入管制区の10,000ft以下で250ktを超えることができる条件、その際の管制官とのやりとり等が分かるようになりますので、最後までご覧ください!
速度制限
まず速度制限については、航空法により 管制圏と進入管制区の高度10,000ft以下の空域では、「国土交通省令で定める速度を超える速度での飛行」が禁じられており、航空法施行規則第179条には以下の4つの速度制限が定められています。
- 通常の制限速度
- 自衛隊機の制限速度
- 管制官の指示による制限速度
- パイロットの判断による制限速度
今回は、民間機のことについて紹介しますので、【②自衛隊機の制限速度】は割愛させていただきます。
つまり、普段は【①通常の制限速度】が適用されますが、一定の条件下では、③や④の制限速度が適用されるということです。
それぞれの制限速度について以下で説明します。
通常の制限速度
管制圏及び進入管制区のうち高度3,000m(10,000 ft)以下の空域…250kt
施行規則 第179条 第1項
2021年12月30日付の省令改正により、管制圏の高度3,000ft以下の空域の速度制限が緩和され、装備している発動機によらず「250kt」に改正されています。
管制官の指示による制限速度
管制機関より上記の速度を超える速度で飛行することを指示された場合…当該指示の速度
施行規則 第179条 第2項
管制方式基準(Ⅰ)2通則【速度制限空域における制限速度を超える速度の指示】には、以下のように規定されています。
- ハイジャック、急病人の発生により
- 当該機から上記の制限速度超える速度での飛行の要求があり、
- 航空交通に支障がない場合、
要求された速度を限度とした飛行を指示する。
この場合は、管制官から指示された速度が制限速度になります。
ATC要領
PILOT:Tokyo approach, SKY300, request descend speed 300kt below 10,000ft, due to heart attack passenger on board.
ATC:SKY300, maintain 300 kt or less.
この場合、機内の病人のため10,000ft以下を300ktで飛行することを航空機側から要求し、管制官から指示を受けました。
そのため、進入管制区の10,000ft以下でも300ktが制限速度となり、250ktを超える速度で飛行が可能です。
パイロットの判断による制限速度
航行の安全上やむを得ないと認められる事由より、上記の速度超える速度で飛行する必要がある場合…必要と認められる適切な速度
施行規則 第179条 第3項
上記の規定にかかわらず、パイロットが航行の安全上の必要と判断した場合、必要と認められる最小の速度が制限速度となります。
管制官の関与なしに適切な速度での飛行が可能で、法で航行の安全が阻害されないよう配慮されていると思われます。
航行の安全上やむを得ない場合の具体例とパイロットの対応はAIM-J 454d項に記載されています。
- TurbulenceやIcingなど気象状況のため必要な場合
- Flap Upのため250kt以上にする必要がある場合
この場合、他機との間隔設定に与える影響が大きいため、理由と速度を通報することが望ましいです。
ATC要領
PILOT:Tokyo departure, SKY301, our climb speed 280kt due to performance.
ATC:SKY301, roger.
管制官は「パイロットの判断による制限速度」を許可できる?
管制官は通常の制限速度を超える速度を許可できるのは「ハイジャック、急病人発生時のみ」です。
航行の安全のためにパイロットが通常の制限速度を超える速度をリクエストしても、管制官にはそれを許可できる権限がないため、at your discretionという応答しか期待できません。
まとめ
パイロットは通常の制限速度を超える必要が発生した場合、状況に応じて使い分けることが必要です。
- 航行の安全に関わる場合
- 管制官の許可を得ることなくパイロットの判断による制限速度で飛行し、その理由と速度通報する。
- 航行の安全に関わらないハイジャック、急病人発生の場合
- 管制官の指示による制限速度で飛行するために、必要な速度を管制官に要求する。
以上のように、管制官が指示できる場合とできない場合で状況に応じて、制限速度を適用してください。
また次の記事をお楽しみに!